住宅ローンを完済すると金融機関から抵当権抹消に必要な書類一式が送られてきます。
抵当権を抹消するには、金融機関から受け取った書類のいくつかに必要事項を記入して、これを登記申請書に添付して、管轄法務局に抵当権抹消の登記申請を行う必要があります。
今回は、この住宅ローンの完済による抵当権抹消登記の必要書類について概説します。
1.一般的な場合の必要書類
一般的な場合(合併、相続、住所変更、必要書類の紛失等の事情が存在しない場合)の必要書類は、以下のとおりです。
- 登記原因証明情報
- 登記識別情報通知書・登記済証
- 委任状
※不動産登記令等の改正に伴い、平成27年11月2日より会社法人等番号を提供することによって、抵当権者の資格証明書は添付不要になりました。ただし、作成後1か月以内の当該法人の登記事項証明書を提供した場合には、会社法人等番号の提供に代えることができます。
(1)登記原因証明情報
登記原因証明情報は、登記の原因となる事実又は法律行為の存在を証明する情報(書面)です。
抵当権抹消登記を申請する場合は、登記原因証明情報を提供しなければなりません。
登記原因証明情報は、金融機関(保証会社含む。以下同じ)が作成します。
登記原因証明情報の形式は、金融機関によって異なります。
一般的に多いのは、「解除証書」や「弁済証書」といった書面を作成する方法です(図1)。
抵当権設定契約書の末尾に「本契約に基づく抵当権を本日解除する」といった旨の記載がある奥書形式のものもあります(図2)。
他にも法務局への報告形式の登記原因証明情報を作成する金融機関もあります(図3)。
(2)登記識別情報通知書・登記済証
平成16年に不動産登記法が全面改正され平成17年3月1日より施行されました。
この改正により登記済証に代わる本人確認情報手段として登記識別情報通知制度が新設されました。
ただし、既に交付済みの登記済証が無効になるわけではないので、現行法下においては、登記識別情報通知書と登記済証が交付時期により混在している状況となっています。
(3)委任状
抵当権抹消登記は、登記権利者と登記義務者が共同して申請しなければなりません。
登記申請を代理人に委任する場合は、委任状が必要になります。
2.権利者に住所変更や相続がある場合
(1)住所変更がある場合
登記権利者(抵当権設定者)の現在の住所が登記記録上の住所と異なる場合は、抵当権抹消登記の前提として、所有権登記名義人の住所変更登記を行う必要があります。
住所変更登記には、登記記録上の住所から現在の住所までの移転の経緯がわかる書類(住民票、戸籍の附票等)が必要になります。
(2)氏名の変更がある場合
登記権利者(抵当権設定者)の現在の氏名が登記記録上の氏名と異なる場合は、抵当権抹消登記の前提として、所有権登記名義人の氏名変更登記を行う必要があります。
氏名変更登記には、登記記録上の氏名(旧氏名)、現在の氏名及び氏名の変更日が記載された住民票、戸籍謄抄本等が必要になります。
(3)相続が発生している場合
登記権利者(抵当権設定者)が死亡した後に抵当権が消滅した場合は、抵当権抹消登記の前提として、相続による所有権移転登記(相続登記)を行う必要があります。
相続登記は、法定相続による場合、遺産分割協議による場合、遺言による場合等で必要書類(相続を証する書面等)が異なります。
なお、登記権利者(抵当権設定者)が死亡する前に抵当権が消滅していた場合は、相続登記を経由することなく相続人の1人から相続人全員のために、登記義務者と共に抵当権抹消登記を申請することができます。ただし、この場合も相続を証する書面が必要になります。
3.義務者に合併や商号変更がある場合
(1)合併がある場合
抵当権抹消登記の原因日付が、抵当権者の合併登記の日付の前か後かによって、抵当権移転の要否が変わってきます。
合併の前に抵当権が消滅していた場合は、抵当権移転を経由する必要はありません。
この場合は、合併したことを証する書面を添付して、承継会社が登記義務者となり、登記権利者と共に抵当権抹消登記を申請することができます。
合併後に抵当権が消滅した場合は、抵当権抹消登記の前提として、合併による抵当権移転登記を行う必要があります。
なお、抵当権移転に係る登記費用は、通常は抵当権者(金融機関)が負担します。
(2)商号変更や本店移転がある場合
登記義務者(抵当権者)に商号変更や本店移転がある場合は、これらの変更を証する書面を添付して、抵当権抹消登記を行うことができます。
なお、合併を証する書面や商号変更や本店移転を証する書面については、会社法人等番号を提供することによって省略することができる場合があります。
4.抹消書類を紛失してしまった場合
金融機関から受け取った抵当権抹消の必要書類を紛失してしまった場合は、金融機関に抵当権抹消に必要な書類を再発行してもらう必要があります。
ただし、登記識別情報通知書・登記済証については、再発行ができません。
抵当権抹消登記には、一定の場合の除いて登記識別情報通知書・登記済証の提供が必要ですが、これらが提供できない場合は、①事前通知制度、②資格者による本人確認情報提供制度、③公証人による認証制度のいずれかを利用する必要があります。